ホンネ

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2022/07/24 井上つばき

第2章2-7①難治性腹水と腸閉塞と臍ヘルニア手術

第2章2-7①難治性腹水と腸閉塞と臍ヘルニア手術

小学5年生、11歳で命の危機を乗り越えた椿。

でも、本当に椿を苦しめた病気との戦いはここからでした。

蛋白漏出性胃腸症【難治性腹水】との闘い

先に説明しましたが、蛋白漏出性胃腸症(たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう)
という病名でもその症状は患者によってさまざまです。

〇蛋白漏出性胃腸症

“蛋白漏出性胃腸症とは、血液中に存在するタンパク質が消化管内腔へと失われてしまい、
低タンパク血症に関連したさまざまな症状が現れるようになる一種の症候群です。”
Medical Noteより引用)

“蛋白漏出性胃腸症の原因は多岐に渡るため、各種疾患に応じた固有の症状が出現することになります。
たとえば、SLEが原因であれば関節の痛みや発疹などの全身症状を伴うことになります。
こうした原因疾患特有の病気に関連した症状を認めることがありますが、
蛋白漏出性胃腸症では「低タンパク血症」に関連した共通する症状を呈することになります。
具体的には、胸水や腹水、浮腫ふしゅなどが症状として挙げられます。
タンパク質が消化管に漏出されることと関連して下痢になることもあります。
さらに、蛋白漏出性胃腸症では成長障害につながることもあります。”
Medical Noteより引用)

椿は腹水として発症→難治性腹水・・・体内から漏れ出した液体が腹部に貯留

鋳型気管支炎(いがたきかんしえん)【血混じりの血痰】の兆候として微熱や倦怠感が
小学3年生の終わり頃でしたが、難治性腹水(なんちせいふくすい)の症状として
腹部の膨張がどんどん目立つようになってきたのが小学5年生の冬頃でした。

外来で様子をみていましたが、少しずつたまってきた腹水の圧迫に
本人が限界になったため排液する治療に進みました。

それまで約2年かけて少しずつたまってきた腹水を一旦抜いてしまうと、
2週間後には漏れ出てきた体内の成分が、空っぽになったタンクにたまっていきました。

その後は堰を切ったようにたまるペースが早まり、
排液した1週間後にはもう苦しくなるほどたまっていきました。

はじめは1日にたまる量は800ccほどでしたが、その後徐々に蓄積し1週間で1500cc程度になりました。

その後も腹水がたまる量は確実に少しずつ増えていきました。

最大量は4日間で3400ccまでになりました。

腹水がたまる過程で、体内循環のバランスがくずれてしまうため、
頭痛、吐き気をともない、腹水を抜かなければお腹が破裂してしまうくらいパンパンになりました。

内側からたくさんの小さい針で刺されているような痛みもあったようで、
排液してもらうまではもだえて泣いて過ごす夜もあり、椿は相当苦しそうでした。

難治性腹水 医ケア児 腸閉塞
腹腔穿刺(ふくくうせんし)の処置前 シートには看護師からの応援メッセージ

難治性腹水の影響でお腹やおへその膨張で腸閉塞に…おへそ除去手術へ

排液の処置をはじめてから、椿が我慢できる腹水の量は、
平均して2㎏(腹水2000cc)ほどが限界数値だとわかってきました。

難治性腹水による腹部のふくらみや圧迫は、生活においてさまざまな弊害が生じるようになっていきました。

2kgの重り(腹水)を抱えながらの生活が続くようになっていき、
椿のお腹は臨月の妊婦さんのようにふくらみ、
着る服は腹部に締め付けのないワンピースばかりになりました。

足元を見ることが困難で、自分で靴下や靴がはけなくなりました。

それまでも困難だった階段は、しんどいだけではなく、危険なものになりました。

そんな過酷な病気と向き合いながら、小学5年生の終わりに命の危機を無事乗り越え小学6年生になった椿は、
「普通の学校に通って、なるべくお家でみんなと過ごしたい!」と決めました。

週に1回の1日入院で腹水を抜いてアルブミンと免疫グルブリンを補充してもらいながら、
残りの平日4日間は地域の小学校に通いました。

朝、保健室の裏側から登校し、なるべく移動がないように配慮してもらいながら過ごし、
給食を食べて帰る学校生活を送れるまでに回復しました。

難治性腹水 医ケア児 腸閉塞
いつも登校していた保健室の入口

難治性腹水の治療で追加された利尿剤の内服薬サムスカは、
主治医いわくかなり喉の渇きを感じるそうです。

そうでなくても厳しい水分制限があり、1日1000ccしか飲めない状況にだんだんと本人も限界になり、
決められた水分以上の量を隠れて飲むようになっていきました…

そうしてたまっていく腹水を抜いては足りない成分を補充し、
また漏れ出てたまり、過剰な喉の渇きから水分の摂り過ぎでしんどくなる…。

根本的な改善のない繰り返しの治療が続くようになっていきました。

腹水のたまりは残念ながら減少する傾向はなく、週に1回の腹腔穿刺を続けていましたが、
繰り返す腹部の肥大でおへそにも腹水がたまるようになってしまい、
おへそが肥大化して先端が服にすれて痛み、さらに突出した部分に大腸が詰まり腸閉塞になりました。

ついにはおへその皮膚が破れてそこから腹水が漏れ出るようになり、臍ヘルニアの手術を受けました。

当時の椿の体力では麻酔をかけるのが非常に難しく、
最悪の場合命を落とすかもしれませんでしたが手術は無事成功しました

難治性腹水 医ケア児 腸閉塞

椿の病気 カルテ06

このときの麻酔が成功したことは特例で、麻酔科の先生に
「今後、椿ちゃんと同じ様にしんどい子の役に立てたいから学会へ報告させてね」
と言ってもらえ、娘自身が承諾する書類にサインをさせてもらいました。

これもひとつ、椿の勲章です。

★椿、小学6年生の4月から週に1回の1日入院に切り替え

(なるべく病院外で「普通」に過ごせるように配慮しながら、悪くなるようなら即入院の約束。)

※この時家族3人で住んでいたコーポが、病院から車で10分ほどの距離だったことも退院できたひとつの理由。

◎入院中の治療

1.腹水貯留→腹腔穿刺(排液量:平均2400㏄/1週間)

●腹腔穿刺…入院のたびに点滴ルートを取り、
頻回に処置を行うためなるべく身体に負担がかからないよう、
麻酔ではなく鎮静剤(ちんせいざい)の量を調整して眠らせている間に処置をしました。

毎回微量な調整になるため、本人は記憶には残っていないようでしたが、
処置室からはいつも「いってーっつってんだろ!」「やめろよ!」
など椿の暴言が聞こえてくることがありました。

普段はそういう言葉遣いはしない子だったのですが、
処置が続くごとに開放的になっていくような感じでした。

鎮静が効いていない普段の会話でもポロっとそんな言葉がたまに出てくることも増えました。

2.足りない成分の補充→点滴投与でアルブミン・グロブリンの補充

●輸血…椿が1回目の余命宣告を受けたときから開始された輸血。

輸血というと、「他人の赤い血を体内にいれる」というイメージを持たれるひとが多いと思いますが、
椿が投与してもらっていたアルブミン(肝臓で作られるタンパク質)は「血漿製剤」になります。

液体は黄色っぽい色をしています。

グロブリン(免疫グロブリンと呼ばれ、抗体としての機能を持ち細菌やウイルスから防御する役割)
も「血漿製剤」で、こちらは透明色でした。

【輸血の種類について】

“輸血用血液製剤には、主に「赤血球液製剤」、「濃厚血小板製剤」、「新鮮凍結血漿」や「血漿分画製剤」があります。
現在は、採血した全血献血は遠心分離して、赤血球、血漿、血小板の3種類の成分である
「赤血球液製剤」、「濃厚血小板製剤」、「新鮮凍結血漿」に分けられます。 
成分献血(アフェレーシス)で採取された献血血液からは、
「濃厚血小板製剤」と「新鮮凍結血漿」が得られます。
このように、患者さんが必要とする成分だけを輸血する「成分輸血」が主に行われています。”

一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会より引用)

繰り返す腹部の膨張でおへそが少しずつ肥大化!

腸閉塞に…

難治性腹水 医ケア児 腸閉塞

◎腸閉塞

→おへその突出した部分に大腸が詰まる病気。

腸が詰まると同時に腸の血行が障害される状態で、放置すると腸が腐ってしまう。

症状:嘔気、嘔吐、腹満感、腹痛、便秘、おならの停止など

椿の場合は非常に特殊で、腹水の増減の助けもあり、
自然と詰まっていた腸がほどけてくれて大事には至りませんでしたが、
嘔吐や腹痛が激しく、とても辛そうでした。

2018.11.23 臍ヘルニア手術

→おへそ肥大にともない、おへそを全摘出する手術

※体力的に麻酔が難しい手術→成功!

難治性腹水 医ケア児 腸閉塞

手術を終えたあと少し切なそうにおへそがあったところをさすることが何度かありましたが、
持ち前の切り替えの早さで「ま、これで痛くなくなったしね!」と前向きに受け入れてくれました。

【関連記事】

『病気と共に生きる』もくじ

1-1 椿の軌跡 

1-2 椿のカルテ

2-1 心臓病のお話

2-2 椿の病気発覚

2-3 椿の病気解説 

2-4 グレン手術と合併症

2-5 ①フォンタン手術と術前治療

      ②ペースメーカーのおはなし

      ③フォンタン手術後の生活

2-6 ①フォンタン術後症候群

      ②はじめての余命宣告

2-7 ①難治性腹水と腸閉塞と臍ヘルニア手術

      ②病院外で生活するために

      ③「チーム椿」の結成!

2-8 ①発達障害発覚までの経緯-1

      ②発達障害発覚までの経緯-2

      ③発達障害発覚までの経緯-3

      ④発達障害発覚までの経緯-4

      ⑤発達障害と難治性腹水の治療の関係

2-9 ①発達障害とは?

      ②本人へ伝える

      ③発達障害の治療は支援?

      ④取り組んだこと

      ⑤時にはお互い休憩も大事

      ⑥もしわが子が発達障害かもしれないと思ったら…

      ⑦社会的支援について

2-10 ①命のカウントダウン

        ②余命宣告後の過ごし方

2-11 ①最期の14日間-1

        ②最期の14日間-2

        ③椿の生きた最期の1日

        ④椿、旅立ちの日